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「オペラ座の怪人」に惑う・『~恋に落ちる瞬間~閑話休題その3』

非常事態に恋に落ち易いのは心理学でもいわれること。

クリスティーヌは二回までもファントムの仮面を引き剥がしています。
ファントムはプリマ・デビューを成功させた教え子に
自ら隠れ家たる地下の芸術の殿堂を余すところなくみせ、
共に至高の音楽の道を歩もうと誘う。
そのラストに、自分を模した花嫁人形を見てクリスティーヌは気を失い、
ファントムの腕で眠りにつく。

芸術の神の花嫁、神に全てを捧げる修道女、
Angel of musicの象徴的な姿を見せたのは
芸術(=神=ファントム)への献身の決心を促すため。
そしてクリスティーヌというエンジェルの翼を得てのみ、
魂が飛び立てるという、ファントム自身の決意表明でもあるのでしょう。

「お前はもうおれの手をとった。同時にふたりの男の手はとるな。
両方からひきよせられてひきさかれる。おれははなさない。」
(『エースをねらえ!』 山本鈴美香 1973-)

真の師弟は互いに身を捧げあうもの。

先に身を投げたファントムは、クリスティーヌにされるがまま。
眠りから醒めた彼女に身をゆだね顔を撫ぜさせるのも、
完全に無防備になっている証し。

それが一転、仮面を引き剥がされることで豹変し、デリラとまで罵る。
髪を切られることで瞬時に力を失ったサムソンのごとく、仮面は
神から与えられたに等しい美のパワーを守る砦。

隠れ家には大鏡がいくつも並べてありましたね。
ファントムはナルシストの常として鏡を見るのが好きだったのでしょう。
マントを翻す仕草、一番美しく見える角度、
仮面の奥から見切る視線の研究にも、余念がなかったはず。
その効果は、いまだ足繁く通う方がいらっしゃるのをみても一目瞭然。

自らの美しさを確認するのが好きなのは、
源氏物語のドン・ファン光源氏も同じ。
鏡を覗いて、女性の羨望の眼差しを得て悦に入るナルシスト。
源氏の場合は素顔の自分の美しさが認められないことに、
かえって心そそられていますけれど。 【夕顔より】 

仮面を憎みつつも身を添わせねばならないファントムは
素顔をクリスティーヌにさらしたことに動揺し、
「Fear can turn to love (恐れが愛にも)」という言葉を口にする。

師としての思いが、恋に変わった瞬間。
ファントムの思いに戸惑い続けたクリスティーヌは、
自らそのきっかけを作ったとも。

恋をしてからのファントムは、尊大さに隠された脆さ、
不器用さがどんどん露呈してゆきます。
目の前で交されるラウルとクリスティーヌの愛の言葉に嗚咽し、
二人を呪うことを誓うも
仮面舞踏会で衆目に姿をさらして自分の存在をアピールし、
師のもとに戻れと言い放つ姿は懇願にも見える。
あの水際立った赤のスタイルでなければ、道化にさえなるでしょう。

さらに恋する相手と言い交わしたいセリフを散りばめたオペラを作り、
自ら演じる捨身の行動。
官能的な歌で完全にクリスティーヌを恍惚とさせたと見えるも、
ラウルとほどんと同じ愛のセリフを発して現実に引き戻してしまう。

...
Say you want(need) me
With you here
Beside you
Anywhere you go
Let me go too
Christine that’s all I ask of (you)…   

"Past The Point Of No Return" Andrew Lloyd Webber 1986 

( )は"All I Ask Of You"のラウル

「一緒に そばにいて欲しいと 言っておくれ 
 どこへゆこうと ついてゆくよ
 クリスティーヌ 求めているのは ただそれだけ」

美しく韻を踏んだバラード。
幸せな恋人同士の、甘い言葉を口にしてみたかったのでしょうね。

そのあげく、二度目の仮面引き剥がしにあい、
素顔を大勢の観客に見られることになるとは。
まこと、恋は盲目。

皆さまも、非常事態にはどうぞお気をつけ下さいませ。
願わくば、ジェラルド・ファントムのごとく、
落ちて悔いなき相手でありますよう。

☆仮面舞踏会でフェルゼンがアントワネットの仮面を取った時に、
やはり二人は恋に落ちていますね。☆


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「オペラ座の怪人」に惑う『~M・ジリーの若さの秘密~閑話休題その2』

あまりにも魅力的なジェラルド・ファントムが
もしもふられなかったらどうなっていたか。
歴史にもしもはないと申しますが、ご想像された方も多いかと思います。

燃える橋の上で仮面を引き剥がされることなく、
恍惚としたままのクリスティーヌを奪い去る、
これこそ「勝利のファントム」の本来の筋書きかと。
「風と共に去りぬ」のレッド・バトラーを彷彿とさせる、
ジェラルド・バトラー・ファントム。

ところが二人がめでたく一緒になるとすると、その後クリスティーヌは
表舞台に立つことはできなくなる。
歌う彼女が世に讃美されること、ひいては自分の教えの正しさが
証明されることがこよない喜びのファントムにとって
これは最大のジレンマ。
やはり、ファントムは、あの時点では振られてしまう運命なのかも。

今週は古都まで足を伸ばし、12回目を観に行って参りました。
憂いを帯びた横顔と、
クリスティーヌの腰のあたりへの大きな手の滑らせ方と、
燃える橋の上でのオーラと。
この三点は毎回見逃せません。

原作では、ファントムはクリスティーヌと別れたあと
亡くなることになっているようですが
映画のラストシーンで指輪が赤い薔薇と共に、
彼女の墓に供えられていたところをみると、
ファントムはそれまで生きていたのかもしれません。

またはファントムとただならぬ関係だったと思われるマダム・ジリーが
再びかくまい続け、彼の遺言を守る形で墓を訪れたとも。

少なくとも、オペラ座の地下から出たあと、きっと長い間
クリスティーヌを見守っていたことでしょう。
いえ、それどころか、ラウルに内緒で、もしくは半公然と、
二人が逢い続けていた可能性だって否定できません。

かの地はなんといっても、恋の最先端・フランス。
しかも退廃的な19世紀の貴族社会。
夫以外に妻が思い人を持つことなど、珍しいことではなかったはず。

そしてファントムをかくまっていた、もしくは居場所を知っていたマダム・ジリーが
彼と愛人関係をキープしていたことも想像に難くない。
そうでなければ、ラウルより15は年上と思われる彼女の若さが解せません。
オークション会場にいたマダム・ジリーはすでに80歳前後だったはず。
あの若さは女として恋を生きることを捨てていない証拠といえるでしょう。
メグ・ジリーの父親が誰か、とまではまだ言及できませんけれど。

ファントムの官能を最初に引き出したのは誰なのか。
映画版・オペラ座の怪人は三角関係というよりも、マダム・ジリーを加えた
四角関係ととらえるのも、一興かと存じます。

戯れ言、どうぞご容赦くださいませ。


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「オペラ座の怪人」に惑う『~美と愛と哀~閑話休題 その1』

恋する方々の魂は、本当にハート型なのだときいたことがあります。
円熟した満たされた魂が球体だとしたら、
想像力と感情が肥大し、周囲が見えなくなり、
どこかあやういバランスをなんとか保っているのが恋する魂。

この半年、ずっと聴きこんでいるのが「オペラ座の怪人」のサウンドトラック。
86年にロンドンでスタートしたアンドリュー・ロイド・ウェバーのミュージカルは、
ゴシックホラーの原作に貫かれた、愛の要素を前面に押し出した作品。
ブロードウェイでも上演され続けていて、8000万人が観劇。
キャッツの記録を塗り替えそうだとか。

(原作者ガストン・ルルーは「黄色い部屋の秘密」という密室作品も)

日本でも88年に劇団四季が初上演。
そのときのチケットを友人に取ってもらったのですが、
アメリカに行くことになり、キャンセル。
その無粋な振る舞いがファントムの逆鱗に触れたのか、
17年の時を経て、ようやく映画にてファントムにお目通りがかない、
案の定、すっかり魅せられている次第。

華やかな舞台、そのバックステージ、シャンデリア、オルゴール、美しい衣装、
地下運河、ゴンドラ、仮面舞踏会、指輪、花嫁の人形、赤い薔薇。
孤独で支配的な異形の男性が、
美しい孤児の歌の才能を育てスターにした途端、
白馬に乗った青年貴族たるライバルが現われての三角関係。

舞台には魔物が棲むといいますが、それを顕現した映画。
上映されて半年以上たち、DVDも発売されている作品が
いまだに各地の映画館で上映されているのも、
さもありなんですね。

ミュージカル作品の映画化の成功としては「シカゴ」も記憶に新しいところ。
こちらも好きで三回、映画館に足を運び、DVDも購入。

もともとミュージカルにも出演していたというアカデミー賞受賞の
キャサリン・ゼタ・ジョーンズの歌とダンスの上手さは納得の一方、
一番好きなのは、ミュージカル初挑戦のレニー・ゼルヴィガーの「Nowadays」。
レコーディングでスタッフが泣いたというのがわかる切々とした歌いぶりです。

「映画・オペラ座の怪人」は主役が三人。
歌姫クリスティーヌ役のエミー・ロッサムも
その恋人ラウル役のパトリック・ウィルソンも
オペラやミュージカルの舞台に立っていて、歌唱力は抜群。

そしてファントム役のジェラルド・バトラー。
歌はミュージカル初挑戦と思えないほど。
非常に官能的な声がイマジネーションに富んだ演技と相まって
危険なほどの魅力。
レニー・ゼルヴィガー同様、新機用で大成功した例になりました。

特に劇中劇・「勝利のドン・ファン」で
真っ赤に染まる橋の上でクリスティーヌに迫る歌
「Past The Point Of No Return(もうひき返せない)」は、心奪われます。
このシーンは一番最初に撮られたそうで、あまりのセクシーさに
女性スタッフ全員がため息をついたとか。
「どうしよう。クリスティーヌは本当にファントムに惹かれているんだね。」
ライバル役のウィルソンも演技を超えて泣いたそう。

支配的で奪うことしか知らない怪人の、
愛を求める魂はずっとハートシェイプなまま。
劇中劇が「ドン・ファン」をモチーフにしているのも興味深いところ。

芸術と愛に身を捧げ、共に黒い闇に堕ちる選択はいかがでしょう。
ハート型の魂のいびつさをだんだんに球体にしてゆく醍醐味もありそう。

陽のあたる場所で、生涯胸にたたんだ思いを抱えてゆく選択も。
これもあなたに謎めいた魅力を与えるでしょう。
多くの方がこちらを選択するゆえに、ステディなパートナーとの関係への
スパイスになっている可能性も。

ファントムの才能と危うさに惹かれつつ
まっとうな青年ラウルを選んだクリスティーヌ。
あなたが彼女ならどちらを選ばれるでしょうか。

美と愛と哀を味わいに、よき作品をぜひ。


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「オペラ座の怪人」に惑う16『伝言 ルイーズ 1854年』

「ジェラールさん、もしご褒美をくださるのなら歌をひとつ、
教えていただきたいんです。」
私は猿のオルゴールが『仮面舞踏会』とは違う曲になったことを話しました。
「よく気がついたね。あのオルゴールはいろいろ仕掛けがあってね。
左の靴を抑えると『今宵、君の手をとりて』、
右の靴を引くと君の歌った祝福の歌に切り替わるんだ。
ルイーズが見つけたのはどの曲かな。」

私がハミングすると、ジェラールさんのお顔の色が少し曇りました。
「ああ、それはまだ完成していないオペラの中の曲なんだ。
歌うには、君はまだ早過ぎると思う。」
「音は取れているんです、もしよかったら曲名と歌詞を。」
「歌えるかどうかではなく、歌うには君は幼すぎるのだよ。」
「私、もうすぐ9歳なんです。ジェラールさんは私の歳には、もうお家を出られて、
旅をなさっていたのでしょう?」

突然、肩をつかまれ、私の顔は仮面のすぐそばに引き寄せられました。
「・・・ルイーズ。知らない方がいいこともある。
聴いてしまったら、もとには戻れなくなるかもしれない。
その覚悟はあるのかな。」

仮面の奥の光、なんて青なんだろう。
いったい何が隠されているというの?
「私、知りたいんです。」
微かにため息の音がして、肩から力が引いてゆきました。
「よろしい。聴かせよう。神に背き、凱歌をあげ続ける男の曲を。」

「君をここへ 連れてきたのは私
 別々に 燃えさかっていた炎が 
 次第にひとつに 結ばれてゆくように

 まだ引き返そうとしているのか
 振り返ろうと無駄な抵抗を
 駆け引きはもう終わったというのに 」
 
ああやっぱり。
オルゴールの音でさえ、心臓がどきどきしてくるのだもの。
マントに覆われた立ち姿で、この声で歌っていただいたら。
体の表面を駆け巡る美しいビブラート、力強いアクセントに満ちた言葉。
頭の中まで熱くなって、私は最後のフレーズまで聴いていたのかしら。
夢かうつつか、はっきりしないままに、くり返されるあのフレーズ。

控え室の長椅子の上で起き上がったとき、
手には二枚のカードが残されていました。
両方ともとても端正な文字で綴られていて、一枚目はあの曲の歌詞、
もうひとつは出発のメッセージ。

「可愛いルイーズ

 ルイーズ、君はきっと、とても早くレディになるだろう。
 あの歌を知ってしまったからにはね。
  
 これから私は、東の端の国へ向かう。
 君は聞いたことがあるだろうか。
 極東の小さな島に、いま続々と各国の船が迫っているのを。
 
 フランスも遅れをとらぬよう、山と文明と叡智を誇示するものを携えて
 かの地を目指すことになり、私の目眩まし、
 それと建築の技術にも白羽の矢がたったのだ。
 いや、本当はどうしても忘れたいことがあって、公爵に頼んで、
 政府に口をきいてもらったというのが実際のところなのだが。
  
 結婚するときは、必ず招待状を。必ずだよ。
 式には行けないかもしれないが、
 そのときは工芸技術が優れているというかの国で、
 花嫁人形でも作らせて贈ろう。
 それとも君には、チョコレートの方がいいのかな。
 
 忘れたい場所と同じ大陸にあるここを去るのが、寂しくなるとは思わなかった。
 とにかく、私は出発する。

 クレアによろしく

                           かつての導き手より」

もう戻れないっておっしゃったのは、あなた。
地の果てまで離れても、時がたっても、
たとえ私が他の誰かのものになり、
あなたの記憶そのものが薄れてしまっても、
逃れることはできない、
あの青い光からは。

クレアお姉さまには、何も言わない、
あなたから教えていただいたことのすべて。


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「オペラ座の怪人」に惑う15『宝石 ルイーズ 1854年』 [二人のマダム・ジリー]

婚礼の日のエリザベート様はいつもに増してとてもお綺麗で、
絵本でみた女王さまそのままのようなお姿でした。
小さい子がそばにいたら気が紛れるからと、
私は控え室を御一緒させていただくことになったんです。
なぜか、お化粧や衣装をなおしに下がっていられるときには
泣いていらっしゃることもあって。

そんなときは、ジェラール、ジェラールって呼ばれるの。
するとどこからともなくお声が聞こえてきて。
何をおっしゃっていたのか、エリザベート様だけにわかるようで、
しばらくすると落ち着いて皆さんのところに戻っていかれるんです。

パーティでお披露目をする方は、私の他にもたくさんいらっしゃいました。
朗読をされる方、楽器を演奏される方、対話をされる方、
とっても上手にご結婚を祝う気持ちを表されました。
ちょっと高くなった演台の上に、皆さんと御一緒に座っていたのですけれど
とっても緊張してしまって。
ジェラールさんから教わったあがってしまったときにする呼吸法というのも、
すっかり忘れてしまったんです。

「ルイーズ。目を閉じて。ゆっくり息をしてごらん。」
目を大きく開いて、口から飛び出しそうな心臓の鼓動を
全身でおさえていた耳に、聞こえてきた天使の声。
途端に体がほぐれて、あらかじめ教えていただいたとおりに呼吸すると
心臓も落ち着いてきました。
「さあ、目を開いて。満場の客が身につけている宝石たちをごらん。
そう。ダイヤ、ルビー、サファイヤ。変わったところではアクアマリンか。
冷たい光を放っているあの石たちが、君の歌を聞きたがっている。
身につけている本人たちよりも、熱心にね。
物言わぬ最高の観客たちに、君の歌を聞かせてあげようじゃないか。」

名が呼ばれて、私の足はひとりでに演台の中央に進みます。
きらきらまぶしく光る、席についていらっしゃる方々の、
競うように散りばめられた宝石たち、よく聞いていて。
もうひと呼吸して、ピアノの前にいらっしゃるグスタフ先生に合図をして、
祝福の歌を。
ラストの高音域を乗り越え、終わってピアノの方をみると、先生はうなずいて
にっこりお笑いになったので、上手くいったのだとわかりました。

気がつくと、広間にいらっしゃる方々からも拍手とお褒めの言葉が
こちらに降り注いでいます。
次に始まるバレエの小品の最後の指導をなさっていたクレアお姉さまの姿も。
私の額にキスをしながら「あの方に、感謝なさいね。」と言ってみえたかしら。
そのとき、私は再びあの声を聞いていたんです。
「控え室に戻っておいで。いまは誰もいないから。」

控えのお部屋にひとりで入ると、確かにとっても静かでした。
鏡の前の椅子に座ってお待ちしていると、「ルイーズ・・・。」
「ジェラールさん?どこにいらっしゃるの?」
「すぐそばに。ご婦人の部屋には入れないのでね。でも話はできるだろう。」
「どうか姿を見せてください。」
「見せるほどの成りではないよ、旅支度をしているから。
だけど、どうしてもというなら、君の前にある鏡にもっと近づいてごらん。」

鏡の向こう側に浮かんだマント姿をみた私が、
びっくりして声をあげそうになると、影はそっと指を口にそえ
「静かに。こちらへおいで。」
隠し扉といって、鏡の向う側は通路になっていたんです。
「陰謀渦巻く皇室の、自衛手段だね。なかなか面白いだろう?」
手をとられて暗い路を抜け、小さなジェラールさんのお部屋に入ると
本当にすっかり片付いて、いつでも出発できるようになっていました。
お話できる時間は、もう残り少ないんだわ。

「さあ、ルイーズ。上手に歌えたらご褒美をあげる約束だったね。何がいい?」
「あの、最初にお礼を言わせてください。いろいろありがとうございます。
あんなふうに歌えるなんて。
ジェラールさんのレッスンやお声がなかったらとても。」
「ルイーズは、歌うことは好きかな。」
ジェラールさんは、静かにお尋ねになりました。
「・・・。本当はあまり好きではないんです。音楽を聴くことほどには。
レッスンのおかげでとても面白くなってきたんですけれど、
大勢の方たちの前で歌うのは・・・。」
「そうだろうと思っていたよ。君は舞台の幻影になるよりも、
日向で戯れるか、観客席の宝石でいる方が似合っている。」
「ごめんなさい。」
「あやまることはない。では、君を私の夢から解放しよう。
ディーバの誕生という夢からね。」


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「オペラ座の怪人」に惑う14『レッスン 1854年 ルイーズ』

「ルイーズ、この一週間よく頑張ったね。明日の披露が無事に終わったら、
何かご褒美をあげよう。」
「本当?ジェラールさん。」
とんとんと楽譜を調えながら、ピアノの前でおっしゃった言葉、
とても嬉しかったんです。

公爵のお城に着いてすぐ、お会いした私の命の恩人さん。
仮面をつけておいでになったけれど、今までみたどんな人よりも背が高くて、
それからとってもお声がいいのです。
ジェラールさんは私に会ってすぐに、歌を聞かせて欲しいとおっしゃいました。
クレアお姉さまはすぐにお聞かせするように私を促して、
ピアノのあるこのお部屋に一緒に入ろうとしたのですが、ジェラールさんは
「悪いが、ルイーズと二人きりにしてくれないか?」
こんな声のいい人の前で歌わなくちゃいけないのってとても緊張していたのですが
ジェラールさんの言葉と、お姉さまの心配そうなお顔をみたら、
本当にどきどきしてしまったの。

「ルイーズ、体がとてもこわばっているね。」
部屋の真ん中にあるピアノの前に立って発声を始めたとき、
足が震えていたんです。
「こちらへおいで。」
叱られるのかと思いながら近づくと、ジェラールさん、
「チョコレートは好きかな?」って。
「大好きです。でも、あまり食べたことがないんです。」
「おやおや。オペラ座では客がいくらでもクレアにボンボンをよこすだろうに。」
「歯に良くないからって。それから、お酒も少し入っているものもあるでしょう?」
「酒、そうだな、たしかに酒はよくない。特に君のような子どもには。」
そうおっしゃったジェラールさんがパチっと指を鳴らすと、
素敵なチェックの箱が目の前に現れました。
「君の大好きなものが入っているよ。安心してお食べ、
お酒は入っていないから。
それからその長椅子に座って、君の話をしてくれないか。」

それから私は、ジェラールさんとしばらくお話をしたんです。
グスタフ先生とのレッスンのこと、大好きな犬のこと、
毎日遊んでいる男の子たちのこと、
歌があまり上手になれなくて、クレアお姉さまにときどき叱られることも
つい言ってしまうと、くすくすお笑いになりました。
「クレアに、私の生徒にあまり厳しくしないよう言っておこう。」
うちにいるサシャは、エリザベート様にジェラールさんがいただいた犬で、
ロシアからペルシャに行かれる前に、お姉さまにお預けになったんですって。
ペルシャってどんなところなのかしら?
お聞きしようとすると、ジェラールさんは立ち上がりました。
「さあ、レッスンを始めようか。」

それから、毎日3時間、私はジェラールさんのレッスンを受けました。
エリザベート様たちの前で歌う祝福の歌、とっても難かしくて。
特にラスト、一気に高い音になるのでグスタフ先生も困っていらしたんです。
ジェラールさんは楽譜を手直しして少し音程を下げてくださった上に
発声の方法も一から教えてくださいました。
「決して、のどだけで歌おうとしてはいけないよ、ルイーズ。
背骨でしっかりと声を支え、おなかと顔を反響盤にして。
それから、声だけに頼っても本当はいけない。
歌詞を解釈し、音楽に溶け込ませ、魂の底から歌い上げるのだ。」

「やさしく思いやって 
 真実を告げた私のことを 
 どうか約束して 
 ときには私のことを
 思い出してくれると 」

歌詞の言葉ひとつひとつにちゃんとわけがあること、
いままで感じたことや、やってみたことをふくらませて言葉を本当にすること、
からだ全体で本当らしさをあらわして、音楽にのせてうたうこと、
それがひとりでにできるようになるまで、何度もくり返すこと。
そして、歌っている自分を客席から見ているもうひとりの自分をつくること。

一週間一生懸命やってみました。
歌うことが面白くなるなんて、不思議。
いままでは、ちょっぴり、いいえ、とっても嫌々歌っていたから。 
グスタフ先生や、他の先生からも教えてもらったことが、
ジェラールさんがおっしゃって、実演していただくと、
とってもよくわかるような気がするんです。

「誰かを好きになったことはあるだろう?そこから想像してごらん。」
「サシャだったら大好きです。」
「確かに動物は、人間よりも純粋に君を愛してくれる。
だがこの場合は相手が人間だね。」
「お父さま、亡くなったお母さま、クレアお姉さまやお兄さまたち。」
「家族のほかには?男の人がいいかもしれないね。」
「誰かいるかしら。グスタフ先生と、お兄さまのお友達のシャルルと、
それから・・・。」
「それから?」

やさしく聞いてくださるジェラールさんの声。
仮面をとったらお顔は、どんな風かしら?
恐ろしいのかしら、ゆがんでいるのかしら。
とってもきれいな目をしていらっしゃる・・・。

私がだまってしまうと、ジェラールさんは静かにおっしゃいました。
「本当に大切なものは、言葉にできないものだね。
 ルイーズ、いまの気持ちを大切にしなさい。」

この気持ちが、人を想うということ?
息がちゃんとできなくて、苦しいようなこの感じが?
歌の披露が終わったらお聞きしてみよう、もっといろいろなことを。


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「オペラ座の怪人」に惑う13『花 クレア 1854年』

私はどこに行ってもあの方に出会う。
オペラ座で生徒にレッスンをつけているときも、
舞台のそでから、客席を眺めているときも、
ブローニュの森に誘い出されるときも。

レッスンのピアノの音が鳴り響き、旋律のなかに僅か数音、
あの方の曲と同じものを聞いただけで、
ボックス席につく貴族たちの中に、黒ビロードと金糸の装いを見ただけで
(彼らは浮かれたおもわに仮面をつけていることさえあるのだもの。)
踊り子たちが目的の、自称「クレアの崇拝者たち」の見え透いた甘言に
我と我が身を任せている自堕落さから、ふと呼び戻される瞬間にも・・・。

あの方は明け方、私の部屋へ忍んでこられることがある。
闇に紛れて、貴婦人や美しい寡婦の枕もとに声の媚薬を
ふりまいてこられた後に。
パリやロシアにいたときもそうだったけれども、特にここ、
バイエルン公爵のお城では少し大胆になっていらっしゃるようだ。

うまくいかなかった次の朝はいつもに増して皮肉な言葉を発されるから、
ご機嫌斜めとすぐわかる。
上首尾に終わった夜は、高揚した気持ちを抑えかねるようにすぐ隣から、
部屋の中を歩き回ったり、低く歌いながら書き物をする音が聞こえてくる。
あるいはそっと、私の部屋へ。

いつでも美しく優しいミューズが必要なのは、
芸術に身を投じた方にありがちなこと、
オペラ座でも、しょっちゅう目にしていることじゃないの、しょうがないのだわ。
ベットの中の私は、そのことを半身で理解しつつ、
もう半身をちろちろと炒られながら、
あの方がゆっくりとマントをはずす音を聞いていた。

今夜は、ご自分の行動に少し酔っていらしたよう。
あの方は静かにベッドサイドに腰を下ろし、黒革の手袋をしたまま
静かに私の、額から流れる髪ひと筋を手にとった。
しばらくそれをもてあそび、またもうひと筋を手にしてゆかれる。
密やかな手の動き。
身を固くして耐えてはいたけれど、あの方はとっくに私が起きていることに
気づいていたに違いない。

「 まだ引き返そうとしているのか
  振り返ろうと無駄な抵抗を
  駆け引きはもう終わったというのに」

その夜のお相手にかがせたものと同じ媚薬が、耳に届く頃には
私は観念してしまうことを学ぶのだ。

翌朝には涼しげな様子で、顔をあわせるあの方。
「ルイーズはなんとか歌えそうだけれど、歌手には向いていないようだね。
ピッチが安定しそうもないし、高音域低音域、ともに極上とは言い難い。
歌いやすいように、祝福の曲には少し手を入れておいたよ。」
「ありがとうございます。」
「日向に植えるべき花は、日向に、だな。これはシシーも同じことなのだが。」
「どこまでも日陰に向く花もありますわね。」
「もちろんだ。どこに咲く花も、それぞれに美しい。」

朝(あした)の薔薇に、夕べの百合、今宵はどんな花を摘まれるのかしら?
もちろん、あの方がいくら花を愛でようと何をしようとかまわない。
どこであろうとも、あなたの咲く場所に私も咲こうと決めたのだから。


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「オペラ座の怪人」に惑う12『結婚 ルイーズ 1854年』

クレアお姉さまは、いつもよりずいぶんとおめかし。
私もたっぷりひだのあるドレスを着せられています。
この日のために、歌をずいぶん練習しました。
グスタフ先生は一生懸命教えてくれたんですが、
姉さまにはなかなか満足してもらえなかったのが残念。

亡くなったお母さまはもとオペラ座のバレリーナ。
お姉さまもオペラ座でバレエの指導をしています。
兄弟は私とお姉さま以外は皆男の子。
お父さま似で絵が得意。
美術学校に行ったり、建築家の下で働いています。
末っ子で女の子の私を、家族はとても可愛がってくれているし
お兄様たちのお友達も仲良く遊んでくれるからとても幸せ。
でも、私には歌の才能はあまりないみたいです。

3才の時に歌とピアノの手ほどきを始めてもらったのに、
5年たってもあまり上達しないから、音楽院への入学も見合わせた方が
いいかもしれないってお父さまも。
お姉さまは時どき「あの方には申し訳ないけれど。」ってため息をついています。

「あの方」というのは、私が赤ちゃんのときに死にかけていたのを
助けてくれた恩人で、E・ジェラールさんといいます。
ハーバリストといってどんな病気でも治してしまうお薬や、
とっても綺麗になれる化粧水を作れる人。
前はこのアパルトマンに住んでいたそうです。
手先が器用でお父さまよりも絵が上手なうえに、歌は天に昇るほど素晴らしくて
赤ん坊だった私はすぐ泣きやむほどだったんですって。

そのせいか、ジェラールさんがアパルトマンから引っ越す時に
置いていってくれた猿のオルゴール、
この曲を歌ってくれていたそうなんですけれど、
これを聴くと私、とってもうっとりするんです。
歌は上手ではないけれど、美しい音楽は好きなので、気がつくと
一日に何度も何度もこのオルゴールを聴いていて。

ジェラールさんは私が生まれる前から、
クレアお姉さまとずっとお付き合いがあって、
音楽のレッスン費用も全部出して下さっているのです。
居間にある素敵なピアノもジェラールさんの贈り物。
どうして私がお母さまやお姉さまのようにバレエじゃなくて、
歌を習っているかという理由はジェラールさんのご希望だからなんです。
ついでに言うと、お兄様たちの学費もジェラールさんが助けてくださっていて
お父さまはとっても感謝しています。

ジェラールさん、今はバイエルン公爵のもとにいらっしゃるのです。
そう、ご成婚になるエリザベート様のお父さまのお城。
オーストリアに嫁がれる前のエリザベート様にピアノや歌をお教えになったり
お肌を綺麗にするための薬草を処方して差し上げているんですって。
皇帝の花嫁になるのも大変かもしれません。

皇帝ご夫妻の結婚披露に、どうして私たちが
お呼ばれしたのかしらって聞いてみると
「あの方のおかげよ。」とお姉さま。
(お姉さまがあの方っていうと、とっても遠い目をするの。)
美しいものがたくさん集まる皇帝陛下の結婚式を、芸術家であるお姉さまと
芸術家を目指している(はずの)私に見せるために、公爵に頼んでくださったのだそうです。
おめかしして馬車に乗っているのはそのためで、お姉さまと私とグスタフ先生は
いったんバイエルンのお城に向かっているところです。

お城に行ったら、ジェラールさんに、お会いできるかしら?
私、猿のオルゴールのことで質問したいことがあって。
オルゴールを抱えていて気づいた秘密、お姉さまにも言っていないのです。
(いつも聴いている曲は「仮面舞踏会」という題名。
歌詞もグスタフ先生から教えていただきました。)
それは猿の帽子のすぐ下をギュっと押すと、オルゴールの曲が変わること。
はじめは壊れたのかと思って、それで誰にも言わなかったんです。
聴いていると、心臓がどきどきして体が熱くなってくる
この曲の題名が知りたくて。
もし歌詞があるとしたら、この曲なら歌ってみたい。
どうぞ私に歌えるものでありますように。


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「オペラ座の怪人」に惑う11『手紙 エリザベート 1848年』

親愛なるジェラール、

そちらは寒くはなくって?元気にしていらっしゃる?
サシャはお腹をこわしていなくって?

ロシアでのマクシミリアンサーカス団の評判、とってもいいみたいね。
お父さまのお墨付きならどこでも行けるってことだけれど、
きっとあなたのファントム・レビューの力が大きいのだと思います。

私はあれから、あなたが見せてくれた、あの幻想を何度も夢にみています。
白いドレスを着て、腰まで伸ばした髪を結ってたたずんでいたり、
大聴衆の前で何か歌っていたり、王冠を戴いていたり。

かと思うと、いろいろな場所を旅していたりして、このあたりはあなたと同じね。
行ったこともない場所を見られるのはとっても愉しいけれど、
私はなぜかいつも一人なの。
お父さまもグスタフも、それぞれ違う幻想をみたようだけれど、
とても深い感銘を受けたって、お互いに話しているわ。

さて、あなたの希望、早速かなったことよ。
パリもいまは混乱中なので、かえってクレア嬢は
こちらを訪ねやすかったんですって。
いま彼女は、私たちの城に滞在しています。
とっても真面目だけど、素敵な雰囲気を持った人ね。
グスタフのヴァイオリンに合わせて、いくつかステップを披露してくれたわ。

クレア嬢もグスタフも静かな人たちだから、気が合ったみたいで、
二人でよく芸術の話をしています。
そうそう、彼女もあなたのレビューを見たんですって?
詳しくは話してくれないけれど、きっと素敵なものだったでしょうね。

お父さまはオペラ座のダンサーならきっとマクシミリアンサーカス団にも
華を添えてくれるって、喜んでいらしたし、
彼女の希望通り、ロシアのバレエ師範のコースにも入れるよう、
手配も済みました。
クレア嬢の旅券が調い次第、オーストリア経由で
ロシアに向かってもらいますからご安心を。
彼女が着いたら、きちんとお迎えに行ってね、いいこと?

ジェラールがいなくなってから、ルイーズ夫人の宿題がまた難しくなったの。
妖精の国の女王にも教養が必要だってあなたが言ったから、
好きなものは少し真面目に取組んでいるけれど。
女王にふさわしい美貌の方は、教えてもらった魔法のハンガリアン水の処方、
きちんと守って使っているから、大丈夫ね。

困ったらいつでも駆けつけてくれるって約束、忘れないで。

ではまた、今度は4人でお会いしましょう。

                     いつまでもあなたの友達  エリザベート


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「オペラ座の怪人」に惑う10『祝杯 エリザベート 1848年』

ジェラールは面白くて素敵だ。
仮面をつけていて、顔の半分が歪んでいるのを気にしているようだけど、
そんなこと私は平気。
だって、お父様のサーカス団には、もっといろいろな人たちがいるから、
見慣れてるんだもの。
歌も、お父様より断然、上手。声もとってもよくて、聞き惚れてしまう。
そのうえ、本当にいろいろなことを知ってるの。
ルィーズ夫人に出された宿題は、歴史から地理からラテン語から、
何だって解いてしまうし、
野原で転んで怪我をしたときに痛みを我慢する方法とか、
ピアノを上手く弾いたように見せる方法とか。
いろいろなお薬の作り方も知っているみたいよ。

グスタフも好き。
静かで、めったにしゃべらないけれど、
いろいろな国の幻想物語を聞かせてくれる。
妖精たちの助けを借りて、小さい子ども達がいろいろな冒険をするの。
ただの女の子が女王になったり、泣き虫の男の子が英雄になったり。
私だって妖精の力があれば、もっと綺麗になれるかもなんて思える。
ヴァイオリンの演奏を交えながら話してくれることもあって、
まるで吟遊詩人みたい。
ピアノがある部屋では、ジェラールも一緒になって
歌ったり弾いたりしてくれるから、
ちょっとした宮廷オペラでも見ているみたいなの。

もうひとつ、三人の気が合うのは、犬が大好きっていうこと。
大きな犬がお城にはたくさんいて、一日中遊んでいても飽きないくらい。
ジェラールは、昔飼っていた犬がいたんですって。
ちょうど子犬が生まれたのをとっても羨ましそうに見ていたから、
一匹名付け親になってもらったら、とても嬉しそうにしていたわ。
サシャって、名前を付けてた。

「ねえ、ジェラール、グスタフ、この返事、どう書いたらいいと思う?」
カールからの手紙がまた来て、私はちょっぴりうんざりしながら二人に見せた。
この頃、革命っていうものが流行っていて、
ご親戚の方々もあちこちに避難されているの。
フランツ・ヨーゼフ殿下と弟殿下のカール・ルードヴィヒ、
それに叔母様のゾフィー大公女もインスブルグの王宮にいらしたことがあって、
私とお姉様はお母様と一緒に機嫌伺いに行ったのね。
カールとはちょっとお話して、お花や果物をプレゼントしてもらったり。
こちらに帰ってからは手紙やアクセサリーを送ってくれるのだけど。
ねえ、恋しいっていったい、どういうこと?

「いただいた厚意への礼を表せばよいのではありませんか?」グスタフは言う。
「シシーがその王子を好きでないなら、余分なことは書かずにね。」
これはジェラール。
「好きじゃないってわけではないの。ただ、退屈なの。
カールはいい人だけど趣味が合わなくて、馬や犬のお話ができないし。
いっそ、あなたたちが王子だったらよかったと思うわ。」
「それは真に光栄。」
「ジェラール、ふざけているわけじゃないのよ。それにね、それに私、
どうせならうんと綺麗になって・・・。」
「10歳というお年にしては、今でも充分、お美しいと思いますよ。」
「ありがとう、グスタフ。あなたって言葉が上手ね。
だけど私ね、お姉様よりもっと、そう欧州一、って言われるくらい美しくなって、
それから、できれば妖精の国の女王になりたいの。」
私の途方もない思いを聞いても、二人は笑わなかった。

その夜、私はお父様と一緒に、ジェラールのレビューを見ることに。
ここにくる前には、これを見せながら旅をしていたんですって。
「エリザベート様、マクシミリアン様、この石にご注目を。」
グスタフも、私たちと一緒にジェラールの手元をじっと見る。
たちまち私は、ふんわりとした雲の上にのっているような心地になった。
王宮で、ほんのちょっとシャンパンを口にしたときのように。
だってほら、楽しげな、何かを祝福するような歌も聞こえてきたじゃない?


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「オペラ座の怪人」に惑う9『ローレライ エリザベート 1848年』

「シシー、さあ行くよ。」
お父様がチターを持ち、私を誘う。
すっかり村人になりきって。
私も丈の短いスカートに着替えて村娘に。
だってまあ表向きくらいは、公爵親娘だと
わからないようにしなくちゃいけないんだもの。

「ローレライにいいバイオリン弾きがきているらしいんだ。」
粗末な馬車で向かう道中、お父様は嬉しそうに言った。
村で唯一の酒場には、あちこちの国から流れ者がやってくる。
チターとヴァイオリンを上手に演奏なさるお父様は、
そんな芸人たちが大好きで、お城にも何人も招いて滞在させては、
「マクシミリアン・サーカス団」なんて名付けて愉しんでいらっしゃる。
音楽のほかにも、アクロバットやめくらまし、
面白い動物たちやちょっとした演劇も。
お母様に押付けられたルイーズ夫人の退屈な
「貴婦人になるための授業」を抜け出して、
お父様と一緒に彼らと戯れるのは、大好き。

ローレライの入口に着くと、お父様はチターを奏でながら、
吟遊詩人のように中に入ってゆく。
お酒で真っ赤な顔をした村人たちが拍手喝采で迎えてくれて、私もいい気持ち。
演奏が終わると、お父様の帽子を持って皆からチップをもらいに回ったりして。
自分でお金を稼ぐってなんて面白いのかしら。

目当てのヴァイオリン弾きは、酒場のすみに小さくなって腰掛けていた。
「北欧からやってきたらしくてね。普段はああして、
いるかいないんだか、静かな奴で。
さあ、グスタフ、一曲やっとくれ。この方のご所望だ。」
酒場の主人が促すと、ヴァイオリン弾きは立ち上がって目礼した。
陽気に騒いでいた村人が静かになり、彼の曲を待っている。
流れてきたのは、綺麗で、泣きたくなるようなメロディ。
周りの皆も、お酒じゃなくって、涙で顔を赤く腫らしている。
お父様も私も感激屋だから、一緒になって泣いて、
演奏の終わった彼のもとに駆けつけた。
「君、ぜひ僕の家に来てくれないか?」
「グスタフ、光栄なことだぞ。公爵のお城に招かれるのは。」
酒場の主人が満面の笑みで彼の肩をたたく。

「喜んで参ります。ただ、もしよろしかったら私の友人も
御一緒させていただきたいのですが。」
「友人ってあの仮面男か。公爵、そいつはなかなかいい歌い手ですぜ。
昨日、ここに来たばかりでお知らせしてなかったんですがね、
夕べ、グスタフの演奏が始まったら
突然歌い始めて、それが上手いの何の。
うちの女房や近所の奥方連中なんか、裏で聞いていたのが飛んできて、
いまだに皆、ぼーっとしてまさあ。
ああいうのを、天使の、いや悪魔の声とでもいうんでしょうかね。
チップも見たこともないくらい山と集まって全部、
酒代、宿代にしてくれっていうんだ。
グスタフとは気があったみたいなんで、一緒の部屋にいるんですがね。」
「彼は長旅で今夜は休んでいるのですが、公爵様のお城で疲れを癒せば・・・。」
もちろん、お父様はすぐに二人を招いた。
私もとっても愉しみ。お父様より上手に歌う人なんているのかしら?
もし気に入ったら、今夜のチップ、少し分けてあげてもいいわ。


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「オペラ座の怪人」に惑う8『幻影 クレア 1846年』

きらきらと目を綾に霞めるものが見える。
くるくると自転しながら虹色の光を放つ石。
あの方のものだろうか、黒い手袋に覆われた指が、
その石にそっと触れると、回転の速度が増し、
放たれる光の渦は、スモークとともに空間に満ち満ちる。

そこは海辺なのだろう。
静かなさざ波の響きと、かすかな潮の香り。
いつか聞いた、父の故郷のイメージ通りの、鄙びた砂浜。
私は何かを待ちながら、はるか水平線に目をあてる。
ふと気づくと、傍らには小さな男の子。
膝小僧を抱えているのが、あの方の幼い姿だとすぐにわかる。

僕は行くよ。
ええ、わかっています。
もうここにはいられないから。
ごめんなさい。あなたをまた守れなかった。
僕はどこにいるんだろう。どこに流れてゆくんだろう。

立ち上がり、海に向かってゆくあの方を私は追うことができない。
あの方の背を覆い尽くす壮絶な孤独の影は、救済を求めながら
同時に、激しい拒絶の色を溶かしている。
私ではない、私でなくてよいから。
美しき音楽の天使よ、舞い降りて。その翼であの方を包んで。
どうか早く、早く・・・。

「クレア、これを握って、まばたきを。」
夢から醒めたあとのよう。
虚空を見つめていた私に手渡されたのは、鈍い光を秘めたクリスタル。
ひんやりと硬い感触は、ゆっくりと私をうつつに戻してゆく。

「どうだろう、私の見せた幻影は。
 人の記憶の断片と、夢と、希望と、そして絶望を、
同時に味わえるマジックは。」
「夢、希望、絶望・・・。」
「絶望の予感なき夢は、単調な音階に過ぎない。
 打ち砕かれるからこそ、甘美な音楽になる。
 君はどんな幻影を?」
「この世では、望めないような栄光。挫折、それから真実。」
「よろしい。成功だ。だが君の顔つきでは、夢から醒めるのに
多少のショックが必要なようだな。」
「・・・。」
「素顔でも見せるか、この醜い面構えが仮面から現われたら、
客もすぐに現実に戻れるだろう。」
自嘲気味に笑うあの方は、どうやらこのファントム・レビューで、
身過ぎ世過ぎをしてゆくつもりらしい。

あの方の旅支度が調った。
真っ黒なマントに身を包み、ますます背が高くみえる。
父の手配した荷車でパリの外れまでゆき、それから東方を目指すという。
「門外不出とかいう、バレエのスコアが手に入ったら送ろう。」
「恐れ入ります。」
「それから、できればルイーズに、音楽の手ほどきを受けさせてやってくれないか?」
「わかりました。」
あの子がなれるのかしら?あの方の天使に。
もしそうなら、私は祝福しよう。全身全霊をこめて。

勇躍とも見えるいきおいで、あの方は衣を翻し、アパルトマンを出て行った。
私にはそれが、過去の全てを払拭しようと願う、あの方の羽音に聴こえた。


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「オペラ座の怪人に惑う」7『エトワール クレア1846年』

あの方は私を椅子に座らせ、部屋の中央に悠然と進み片手を挙げる。
パチンと小さく指音がしたかと思うと、シガーが一本、宙から現われた。
室内をゆっくり旋廻し、私の顔の前で止まったうす緑色の細長い物体に、
ひとりでに火が灯り、ゆらゆらと細い煙が立ち上ぼる。
見えない手がそれをあの方の口もとへ運ぶと至福の表情。
灯りが強くなるたびに、周囲がだんだんとスモークに包まれてゆく。

「忍びやかに ひっそりと 
 夜は その煌めきを 解き放つ
 捉えて 味わい尽くすのだ
 精妙で やさしい その煌めきを」

私はデッサンを見ている。
あの方の描いたオペラ座のエトワールを。
稽古場で熱心に舞っている彼女の、全身に浮かんだしずくが、
玉響となって飛散する瞬景。
そのひとつひとつが、無数の踊り子たちとなり、エトワールの回りを舞い始める。
いつしかその一人に立ち交じり、中心にいる彼女に軽く触れると
今度は私が舞台の中心にいた。

まばゆい光を浴び、豪華な衣装をまとってステップを踏み出す。
差し伸べた手は、万来の観客の心をつかみ、
傾けた視線は、その魂を射抜く。
周囲の踊り子たちは、可憐な星屑で
中央の私は、燦然と孤高を保つ太陽。

最後のターンに酔いしれた観客から投げ入れられる、色とりどりの薔薇の花。
好みのものだけが踊り子たちによってより分けられ、
カーテンコールに応える今宵の勝利を手にしたプリマドンナの腕に。

自分の花を手にしてもらえた者が喜悦にひたり、
そうでない者たちはすぐさまその花で楽屋を埋めるように手配する。
むせかえる芳香。
首まで積み上げられた贈り物の山。
ファンが雪崩をうって私に群がり、そして言う。

「歌って 歌ってください プリマドンナ」

歌う?それは無理だわ。
私は舞うことしかできないの。

「あの方は それをお望みです。」

あの方が望んでいらっしゃる?
私はあたりを見回し、あの方の姿を探す。
仮面をつけた人々が次々に現われては
「あちらへ あちらへ」
再びスモークの帳が下り、聴こえてきたしわがれた声。

「お前の望むものを。
 栄光か 美しさか 若さか。」
「歌の才能を。美しい声を。」
「よろしい。代価には何を?」
「何でも。ここに山とある贈り物、全て差し上げますわ。」
「そんなものはいらぬ。
 お前が本当に持っているもの その足をもらおう。」
「できませんわ。」
「何故できぬ?
 何かを得るには何かを失う。
 あの者を見てもわかるじゃろう。」
  
これは復讐なのか、恩恵なのか。
再び仮面が近づき、私に迫る。

歌っておくれ 私のために。
歌えないのです。
歌え、エンジェル。
踊ることしかできないのです。
歌うのだ 私の・・・。

あの方は天使をお望み。
美しく、あの方にふさわしい声で歌う音楽の天使を。


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「オペラ座の怪人」に惑う6『仮面の下 クレア 1846年』

その日は突然やってきた。
あの方が半地下室に閉じこもって、例の未亡人の大家のための薬草を
調合していたときのこと、前触れなしに当の本人が目当てのものを
取りにきたのである。
薬草は、いつも昼間は人前に出ることを避けていたあの方のために、
父や私から患者に渡されるのが常だったが、
未亡人は待ちきれなかったのだろう。
彼女にしてみれば、自分の持ち物であるアパルトマンの、間借り人に過ぎない
あの方の部屋に侵入することなど、何の躊躇もなかったかもしれない。
また、通常の場合なら、あの方も驚きはしたにせよ、
闖入者を紳士的に向かえたことだろう。

ところが、その時は普段と同じではなかった。
あの方が、仮面を取った状態でいたからだ。
水蒸気蒸留法という、湿気と熱気の篭る抽出を試みていたため、
一人でいるのを幸い、無防備になっておられたのだと思う。

一目みた未亡人は、恐怖の叫び声を上げて逃げ出し、父のもとにやってきた。
「あの、あの化け物は、いったい誰?」
父もあの方の素顔を見たことはなかったけれど、
何を言っているのかは理解した。
未亡人は、気味の悪い化け物に部屋を貸すように促した父を散々に責めたて、
即刻ここを引き払わせるようにと言い渡した。
父は憤慨し、賢明に弁明したけれども、すっかり恐怖に取り付かれ、
興奮している老女を思い直させることはできず、ただ引き払うまでの期間を
少し伸ばすだけで精一杯だったという。

父から連絡を受け、私はオペラ座の舞台が引けてすぐに実家に向かった。
あの物置部屋に帰っておられるのでは、と覗いてはみたが
誰もいなかったからだ。
半地下室のドアをそっと叩いたものの、返事はない。
鍵はかかってはおらず、声をかけながら私はゆっくりと部屋に入っていった。

あの方は、ベッドに突っ伏していた。
部屋には薬草の入ったビンが砕けて散乱しているし、壁には呪い文句が
殴り書きされている。
デッサンは部屋中にばら撒かれ、足の踏み場もない。
たくさんの物に囲まれてはいても、いつもある一定の規律をもって
きちんと整頓されている部屋だったのに。
未亡人の叫び声を聞いたあとの、あの方の感情の嵐。
仮面は床に落ちたままだ。

私はベットの傍らにしゃがみこみ、懇願した。
「どうぞ許してくださいね。」
ビクリと体を起こす気配がして、あの方は私の肩を強くつかむ。
「何を許せというのだ?あの無神経な腰痛持ちの老女か?
それとも私のこの、醜く歪んだ顔のことか?」
深い深い絶望に満ちた声と泣き腫らした顔が私に迫る。
「さあ、この顔を見据えて返事を。何を許せというのだ?」
「すべてを。あなたの回りにある、あなたを傷つけたもの一切を。」
「馬鹿げたことだ!許して何になる。望むものを与えてやったのに、
裏切りで報いるような奴を。
人は皆、そうなのだ。醜いといって産んだ我が子を蔑み、
自ら近づいておきながら、思う通りの顔でないと恐怖の顔を晒して去ってゆく。
幾度裏切らればいいのだ?許したところで、
裏切られ続けることに変わりはない!」
神様、私に力を。この方の心を鎮めるための勇気を。

力なく戻ってきた私の姿を見て、父はほんの少しのスコッチを渡しながら
話しはじめた。
「今日の出来事は災難だったが、そうでなくても出て行ってもらわなくては
いけなかったかもしれないんだよ。
近所に刑事がやってきていてね、彼のことを嗅ぎまわっているらしい。
顔色が変わったな。私も覚えているよ、3年前、カストラードの代役で歌った
常に仮面を外さない少年のことを。
相当な評判で、急にいなくなったあと、オペラ座に刑事がきていたことも。
彼が仮面をしているからって、最初からそのときの少年だと
思っていたわけではないが、あの歌を聴いたとき、
どうして刑事がこのあたりにやってきたかがわかったんだ。
彼は母さんとルイーズの命の恩人だ。
彼がもし、逃げ出さねばならないようになったときのために、
馬車の手配はしてあるから安心おし。」

次の日の夜には、あの方は落ち着いていた。
仮面を身につけ、慇懃に私を部屋へ導く。
「パリを離れる前に、君に素晴らしい魔法を見せよう。きっと気に入る。」
めくるめく不思議な世界への扉が、開かれようとしていた。


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「オペラ座の怪人」に惑う5『音楽の天使 クレア 1846年』

(昨日投稿した「惑う4」に「救済」を投稿させていただきました。
よろしかったら「カストラート」→「救済」→「音楽の天使」の順にお読み下さい。)

オペラ座以外にも、あの方の住む場所ができた。
母子回復のことを聞きつけた大家である未亡人が、父を通じて
長年の腰痛をたちまち解消する薬草を処方してもらい、
その効果に驚いてアパルトマンの半地下室をあの方に提供したのである。
父は大喜びで、食事時にはあの方を自宅に招く。
危機は脱したものの、まだ本調子にならない母のために、
私は相変わらず実家に戻ることが多かったから、
あの方がだんだんとその才能を、私の父の前でも現してゆく様子を
みることができた。

オペラ座の道具係でもある父は、家にも小さな仕事を持ち帰る。
あるとき、ステージ上で入れ子を使うことになり、舞台監督に渡された
ラフなデッサンを前に悪戦苦闘している父のそばで、
あの方はたちまちわかりやすい設計図を描き起してしまった。
きちんと舞台に映える計算されつくされた縮尺で、見えない部分にまで
こまかく寸法を指定してある。
しかも美しい色合いで、それに使う材質まで至れり尽せりの完璧なものだった。

「あなたはいったい・・・。」
「スコットランドのあと、ローマで少し建築をかじっていたので。」
淡々とその部屋にある材料と足りないものを書き付けてゆくあの方を、
感嘆の目で見つめる父。
もちろん、オペラ座に運び込まれた芸術的センスの作品は好評を博し、
父はおおいに面目を施した。

アパルトマンの半地下室は、オペラ座の物置部屋よりも
さらに色々なものが増えていった。
一つの壁は「たちまちなおる魔法の秘薬」処方の噂を聞いた人たちのために
パリ大学の化学実験室のようでもあったし、
また一方の壁はあの方がデッサンをするスペースでもあった。

「赤ん坊を描くのが一番難しい。」
それでも、紙の上で笑っているのは紛れもなく生後半年のルィーズ。
オペラ座やアパルトマンにたむろしている小動物の克明な姿もある。
踊り子たちが練習する姿や、私は行ったことはないが街娼達の巣窟らしき絵も。
中でも目を引いたのは、舞台装置のような奇妙なデッサンだった。

「それは、幻影、phantomを見せる装置なんだ。人々は皆、あり得ないもの、
ファントムを見たがっているらしいからね。
オペラ座での夢幻以上の奇蹟を見せることもできる。」
「あなた以上の奇蹟などありませんわ。ダ・ヴィンチか、それとも・・・。」
私の言葉に、あの方は静かに笑う。

あの方の声の素晴らしさも、家族に知れるところとなった。
夜半、ルィーズが泣き止まずに困ったとき、病気なのではないかと心配した父が
半地下室のドアを叩いたのだ。
すぐに階段を登り、ルィーズを抱き上げて様子をみたあの方は、
大事無いことを請合った上で、低く歌い始めた。

「夜は すべての感性を 鮮やかに磨き上げる
 暗闇は 想像力をかき立て 生き還らせる
 静寂の中で 感性という翼が 
 せまい籠の中から 解き放たれてゆく・・・」

ルイーズはすやすやと寝入り、あの方はこわれものを扱うように、
ゆっくりとベットに横たえる。
傍らで聴いていた母はフレーズを静かに繰り返して、眠りについてゆく。
私は赤ん坊が寝汗をかいて起きないよう衣服を軽くしながら、ため息をついた。
やはりこの方は天使だと思う。
初めて歌声を聴いた父はなぜか何も言わず、
じっとあの方の顔を見つめていた。


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「オペラ座の怪人」に惑う4『救済 クレア1846年』

あれから3年。
あの方は、急にパリに戻っていらした。
ガラ公演が引けてから部屋に戻った私の枕もとに、
あの方のメッセージを見つけた。
急いであの物置部屋に行ってみると、あの方は静かに横たわっていた。
ローマからの旅の疲れだけとは思えないほど、ひどくやつれている。
「何も考えたくないんだ。できればしばらく、
ここで休ませてもらえないだろうか?」
私はうなづき、再びあの方との奇妙な生活が始まった。

その頃、私はよく実家に帰る機会を持っていた。
母が9回目の妊娠をしていて、あまり調子がよくなかったのだ。
ようやく二三人の贔屓がついていた私は、
大して貢いでくれるわけでもないけれど
危険でもない人物を選んで、公演終了後に実家まで送ってもらう。
家に辿り着いてすぐ睡眠をとり、明け方から幼い姉妹たちとともに
家や母の世話をするのだった。
私がしょっちゅう実家に帰るのに、気づいているのかいないのか、
あの方は何か、深い憂いを帯びた表情で、以前のように
ピアノを奏でることもなくただ、日々を過ごしていた。

あの方が帰っていらして、ちょうどひと月目、母の出産が始まった。
非常な難産で、医者は母子双方の命が危ういかもしれないと、
おろおろする父に告げた。
私が家より連絡を受け、顔色を変えて挨拶も早々に出かけようとするのを
あの方は不審に思ったらしい。
事情を説明する私の声に耳を傾けてから、遠慮がちに口を開いた。
「もし、もし、君と・・・君の家族がかまわないのなら、
私を伴なってはくれないだろうか?」
「申し訳ありません。いまはおそらく、何のおもてなしもできませんので・・・。」
「何も、もてなしてもらおうと思っているんじゃないんだ。
そんなこと、考えもしない。
もし、もし必要ならば、僕の知識が役に立てるかもしれないと思ってね。」
私が同意すると、あの方はローマから携えてこられた荷物の中から
黒いカバンを抱えて、共に馬車に乗り込んだ。

母も、生まれたばかりの妹も、瀕死の状態だった。
ひどく青ざめて、苦しそうな母と、ほとんど虫の息の赤ん坊。
あの方はすぐに私に大量の湯を沸かさせ、カバンの中の薬草を調合し始めた。
父は、突然、娘が連れてきた仮面の男をいぶかしく思う余裕もなく、
ただ私があの方に言い含められた「薬草学の本場スコットランドで学んだ
ハーバリスト」という触れ込みにすがって、器用に動く手元を見つめている。
明け方、ジプシー直伝の薬の作用で、奇跡的にふたりの顔に血の気が戻る。
「あなたは天使だ!」
父は伏し拝まんばかりに感謝し、私はそのまま気を失ってしまった。

気がつくと、私は小さな客間のベットにいた。
傍らにはあの方が、座ってこちらに目を当てている。
「もっと早く言ってくれていたら、心労回復の妙薬も調合できたのに。」
顔を近々と寄せられ、深い緑色の液体を手ずから飲ませてもらう。
甘苦いその薬湯の味に、私はなぜか涙がこぼれた。
「泣くほど苦くはないだろう?」
「ええ」
「もう一度、お眠り。オペラ座の支配人には、君の父上から
連絡を入れてもらったから。
できればしばらく休暇を取るといい。」

私はあの方と共に、実家で三日ほど過ごした。
父はすっかり同郷の薬草師の信奉者になり、飲めないあの方に
スコッチウィスキーをすすめながら、回復した妹の名付け親になって欲しいとまで
言い出した。
「娘は、あなたに命をいただいたのですから。」
あの方は、ひどく複雑な表情で父の言葉を聞いていたが、
父のぶしつけを詫びかけた私を制して言った。
「もし、もしできるなら、ルィーズという名前を・・・。」
父は大喜びであの方の手を取り、新しい子どもの名前を歌うように唱えながら、
隣室の母娘のところへ知らせに行った。

ルイーズ。
いったいどなたに縁の名前なのかしら?
もしかすると、ローマから帰る原因を作った方?
私の心のうちを読み解くように、あの方は口を開いた。
「母のミドルネームなんだ。かまわなかっただろうか?」
「お母さまの。光栄ですわ。」
あの方のお母さま。
きっと嗜み深く美しい方に違いない。
私は新たに、幼い妹に軽い嫉みを覚える。
彼女はいったい、どんな風に生い立ってゆくのだろう。
あの方に縁深き刻印をその生に戴いたのちに。


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「オペラ座の怪人」に惑う3『カストラート クレア 1843年』

あの方は、夜の闇に紛れてオペラ座の外にも出るようになった。
上背はあっても、私よりひとつ年下の13歳の少年が夜な夜な出かけては、
なにかしらご自分の作品の材料になるものを持ち帰ったり、
仮面に力を得て、モンマルトル界隈に出没したり。
ご自分の歌声に魔力が宿っていると気づかれたのは、この頃だろう。
街娼たちの回りをたぐいまれな声の力で取り囲んで誘惑し、
時には彼らの巣窟についていかれることもあったようだ。

あの方はまた、オペラ座の大勢の出演者のなかに入り込み、
舞台袖に堂々と現われたこともある。
仮面を使うステージはしばしば行なわれていたし、舞台裏には
パトロンやメッセンジャーや、その他出演者以外の得体の知れない人々が
たくさんうろついていたから、あの方が目立つことをしない限り、
誰であるかを追及する者などいなかった。
出待ちをしている私に近づき、耳元で観客を評した冗談などをささやいて、
緊張をといてくれたことも。
この程度で留まっていてくれたらよかったのだけれど。

それはあの方の勝利の夜でもあったと言ってもよいかもしれない。
突然、腹痛に襲われたイタリア出身の美しいカストラート。
本番直前だったため、誰も代わりをつとめることができない。
困り果てた支配人が、部屋に閉じこもって払い戻しをすべきか
迷っているところへ、どこからともなくその晩の演目を歌い響かせて眩惑。
藁をもつかむ思いにさせたところへ、豪奢な衣装と仮面をつけて
現われたあの方は何ものであるか詮索せず、相当の報酬を払うという
ふたつの条件を飲ませて舞台に立った。

パリ・タブローもこの夜の「魅惑的なカウンターテナー登場」を
挿絵付きで取り上げ、それは本として残されたから、今もあなた方は、
あの方のあり日しの姿を見ることができる。
すんなりとした肢体と仮面越しの豊かな表情、完璧な歌唱は
満場の観客を魅了し、特に女性の心を捉えたと。

あの方に言わせれば「あのイタリア人の歌はなっていないから。」
確かに、魔力を持った歌い手にとっては我慢ならないものだったかもしれない。
楽屋にいるカストラートを薬草で眠らせて(ジプシーのサーカスにいる頃、
魔女然とした老女から知識を学んだそうだ。)入れ代わるという
奇術めいたことも考えていたようだったけれど、
実際は彼が手を下したわけではないと思う。
あの方にとっては、これはひとつのチャンスだったが
私にとっては辛い道に繋がることでもあった。

パリ・タブローは、あの方の顔を売る代わりにある者の注意をも促した。
少年犯罪を扱っていたジャベール刑事。
彼は後にジャン・バル・ジャンという脱獄した男を猟犬のように
追い詰めることになるのだけれど、当時はパリに横行していた少年達の
スリや詐欺などを監視していた。
あの方の人相、風体と犯した絞殺という行状は、
律儀にパリ警察に報告されていたためその事件から半年も経っていないときの
謎の少年の活躍は、刑事の嗅覚をくすぐってしまったのだ。

あの方は勝利の夜から続けて5日、舞台をつとめていたが、
客席に首実検にきた警察の姿を認め、すぐにオペラ座を去り、
ローマに向かうと私に宣告した。
「前から考えていたことだから。古今の建築物を見たいし、
実際に作る現場にも入ってみたい。
幸い、支配人から報酬もいくらか回収してあるから、
ここを出てもしばらくやっていけるだろう。」
「戻っていらっしゃることはあるのですか?」
「君には本当に感謝している。ローマで納得のいくものを作ることができたら、
いつか顔を見せにくることもあるかもしれないが。」
「必ず、帰っておいでになるわ。」
私が仮面に顔を近づけると、目を見開いて受けとめてくれた。
驚きと、寂しさが入り混じった表情を浮かべた私の偶像は
オルゴールひとつ抱えて、この街を去っていった。


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「オペラ座の怪人」に惑う2『オペラの華 クレア 1843年』

プリマにはなれないことが、自分でもそろそろわかり始めていた頃、
私はあの方に会った。それも、とても特異な場所で。

スコットランドから流れてきてオペラ座で裏方をしていた父。
同じくオペラ座でダンサーをしていた母は私が物心ついたときはすでに引退し、
パリで帽子店兼小間物屋を開いていた。
相変わらずオペラ座に出入りしていた父は、舞台で使う被りものや、
観客に届けるちょっとした小物などを用意する。
生活は豊かではなかったけれど、仲のよい夫婦。
その分、私を筆頭に子どもがどんどん増える。
父と一緒にオペラ座に届け物をしていた私は、自然に早く家を出ることになり
寄宿生活も3年目を向かえていた。

オペラ座の踊り子たちの日常は過酷だ。
寄宿生として生活全般が安定している代わりに、常時公演をして
外貨を稼ぐことを奨励されている身分だから
昼間はみっちりと基礎練習や振り付け、
夜は公演のはねる深夜までオペラ座に釘付けになる。
遊ぶ間などない。
「ここはね、華やかな修道院ってところね。パリ中央修道院。」
そんな冗談を飛び交わせながら、ある者はプリマを目指してひたすら精進し、
ある者はお金持ちの目にとまることをあからさまに示して、
これも自分を際立たせることに腐心する。

私といえば、そのどちらにもなり切れない。
ただ、重心が微動だにしないピルエットができ、
振り付けを覚えるのだけは異常に早い。
頭ひとつ皆より高く、誰よりも正確に踊る私に向かって叫ぶ振付師。
「クレアを見て、お手本にするのよ。」
真似する者が多いということは、結局私も大勢の中の一人。
主役はいつも違う誰かのものになるのだった。

あるとき、事件が起った。
公演を前にして、プリマドンナがパトロンの一人と失踪したのだ。
オペラ座は大騒ぎになったが、なすすべもない。
公演初日は一日伸ばされることになり、なんとか見つかった代わりの
プリマのために、その日の夜はバレエのレッスン場を明け渡すことになった。
何でも、彼女はひとりで練習したいのだそうだ。
気前のよいプリマにいく分こずかいをもらい、私たちは夕暮れの町に出た。
「公園にサーカスが来ているんですって。」
軽い好奇心から覗いてみることにしたこの見世物小屋で、
私の運命を分ける出会いがあろうとは。

あの方は、薄暗い檻の中にいた。
鞭でひどくぶたれ、被せられた麻袋を剥がされた顔は真っ黒に汚れていて、
番人が言う「悪魔の申し子」の形状をしているのかさえ、よくわからなかった。
他の見世物だって、本人たちがいかにもおどろおどろしい声音を出したり、
叫んだりするものだから、見ている方もそれに合わせて悲鳴を上げるだけで、
よく見れば舞台裏にもよくある付け髭やメイクだったり
私たちにも難なくできるアクロバットだったりした。
それが暗闇で浮かびあがると、粗雑な出来なだけにかえって雰囲気がある。
あの方は、あの方自身が見世物にされようという意志をもっていないだけに、
私にはただ、哀れなものとしてうつった。

ひとしきり檻の中に小銭が投げられ、番人がそれを数えているとき、
私はまだそこにいた。
妙なる声が聴こえてきたからだ。
カチカチと何か金属を合わせる音とともに、
うつむいたあの方の口から洩れ出るメロディ。

「仮面舞踏会 紙の仮面達のパレード
 マスカレード 顔を隠して 
 けっして 見つからないように 」

うっとりと聴き入る私の目の前で、突然、信じられない光景が展開した。
いきなりあの方が、番人を背後から鞭で締め上げたのだ。

一部始終を見ていた私に、何故か迷いはなかった。
ぬいぐるみを抱きしめているあの方の手を取り、
パリの街を縫うように駆け抜け、オペラ座へとひた走ったのだ。
母から、礼拝室の地下に続く、皆に忘れられた物置部屋(母はここで、
父と会っていたらしい)のことを教えられていた私は、
あの方をそこに隠し、そしらぬ振りで寄宿室へ戻った。
他の皆は、私がひと足先に帰ったのだろうと思っていて、
何の疑いももたれなかった。

それから私は、毎日あの方のもとへ食事を運んだ。
はじめは、なにかしらペットを飼っているような気持ちだった。
オペラ座の中で、犬や猫を飼っている者はたくさんいたし、
誰の持ち物でもない小動物もそこかしこにたむろしていた。
自分の食事の一部を分けるのは特に咎められることではなかったし、
食事係りの夫婦は気が良いので、頼んでおけば「可愛いペット」のための
縁の欠けた食器に載せた食べものを取っておいてもらうのは、
わけのないことだった。
当時、ここには700人以上が住んでいたから、
ひと一人増えても目立つこともない。
食事以外にも、私は衣服や洗い桶を運び、
あの方はだんだんと身綺麗になっていった。

顔を見せることは、相変わらず避けたい様子だった。
私が訪ねるのは、レッスンの始まる早朝。
地下二階にある物置小屋に、日が射すことはないのだけれど、
あの麻袋を取ることはめったになかった。
使われなくなった舞台衣装に身を包んだ体に、
汚れた袋はいかにも不似合いなので
私は美しい仮面を使うことを思いついた。
ヴェネツィアを舞台にしたオペラをやったとき、
白い面に色とりどりの縁飾りをつけた仮面がたくさん作られ、
小道具部屋に山積みになっていたのだ。

「どれでも好きなのを。」
10個ほど広げて、あの方の気を惹くようにしてみる。
それはなんだか、可愛いペットの前に
美味しいエサを並べているような気持ちだった。
あの方はゆっくりと吟味し、青い縁飾りのついた仮面を手にとった。

思った通りだった。
あの方は、本当は醜くなどない。
顔半分を隠してしまえば見えている部分は滑らかで、むしろ美しい部類に入る。
そして瞳の吸い込まれるような輝き。
物置小屋に積まれた本と、片隅にあるピアノを相手に
静かに過ごしている様子はとても上品で、
私などよりよほど高い教育を受けてきたのではないかと思われた。
画材を所望されたので、見繕って持ってゆくと
たちまち素晴らしい絵が生まれた。
手先も器用で、檻から持ち出した猿のぬいぐるみは、物置部屋にあった
古いオルゴールと組み合わされ、螺旋巻きでシンバルを叩くようになっていた。

オルゴールから聴こえてくるのは、見世物小屋であの方が歌っていた曲。
誰の曲かと尋ねると、他にも自らの作品をいくつも、
こともなげに五線紙に書き散らして、ピアノの前で歌い奏でてくれる。
私は傍らで、優雅な調べに身をまかせる。
はじめ、あの方をペットのように思っていた私は、いつしか彼の崇拝者だった。

あの方は、ときおり物置小屋をこっそり抜け出ているようだった。
リハーサル中の新作オペラの楽曲を、いつのまにか奏でていることが
よくあったからだ。
はじめは危険にも思えたけれど、オペラ座の目ざとい連中の噂にもならない。
私もそれに慣れ、あの方の求めに応じて振り付けを見せることもあった。

「君は、とても正確に踊るのだね。」
「はい。それだけが、私の取り得なんです。」
「正確さは大いなる才能だよ。
僕を指導した教授も、自分のイメージ通りに形を作り上げること、
正確さを褒めてくれた。」
あの方にはわかっていたのだと思う。
私のバレエには正確さはあっても、華がないということを。
プリマドンナに必要な、手の届かぬ華。
仮面の奥に秘められた、数々の美しい華を持つあの方の言葉を受けたことが
後の私の歩む道を決めたのかもしれない。


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「オペラ座の怪人」に惑う1『二人のマダム・ジリー』

「ふたりのマダム・ジリー」

ルイーズ・ガルニエ・ジリー 妹 オペラ座ボックス案内人 シャルル・ガルニエの妻 マドレーヌの母
クレア・ジリー 姉 オペラ座のバレエ指導者 メグ・ジリーの母 

妹 エリックの注文は、赤い薔薇にビロードの黒リボン、新色のクレパスに大判のスケッチ帳三冊。
  三冊もどうなさるおつもりかしら?
  薔薇はまた、若いご婦人に?今度はどなた?

姉 あなたが詮索することではないわ、ルイーズ。

妹 あら、一時は恋仲でもあったんですもの、今はよき友人として、
  エリックのいまの恋人の名前くらい知っていてもかまわないでしょう?

姉 オペラ座建設で忙しいガルニエの目を霞めてね。
  仕事仲間でもあったあの方に近づくなんて。

妹 シャルルがオペラ座に心血を注ぐことができたのは、エリックの助力あってこそ。
  ほとんど毎日通っているけれど、時どきこの芸術が、シャルルの作品なのだか
  エリックのものなのだか、近くで見守り続けてきた私にもわからなくなるの。
  二人はまるで一心同体。時どき妻である私の嫉妬心を起こさせるほどに。
  エリックのためになることは、シャルルのためでもあったのよ。

姉 もちろん、花のパリで夫以外の恋人を持つな、なんて野暮なことは言わないけれど。

妹 わかってくださったのならいいわ、お姉さま。
  それで、エリックがご執心なのは、また美しい高級娼婦?それともコーラスガール?

姉 コーラスガールの方。

妹 いつぞやのマルグリットのように、どこぞの青年に見初められたのを阻止するべく
  田舎の父親に告発状を送りつけたりしているの?

姉 身寄りがないのよ、彼女は。

妹 まあ、相手はもしかしてクリスティーヌ?あんな魅力のない子をどうして?

姉 そうでもないわ。あの方の指導で、かなり高音域の表現が上手くなって。

妹 確かに彼に歌唱を教えてもらって、晩餐会で面目を施した伯爵夫人もいたわね。
  単なる余興に過ぎないと思っていたら、素晴らしい出来映えで。
  紹介した私も、たっぷりお礼をいただいたわ。エメラルドの指輪も。
  すぐにマドレーヌの学費に替わってしまったけれど。

姉 あなたも苦労するわね。ガルニエが元気なら、ボックス案内人なんてしなくても済んだのに。

妹 いいえ、私は幸せよ。
  ふたりの思い人の作品の中にいるんですものね。
  毎日、エリックの注文、開場1時間前までにボックスVに届けるわ。

姉 ああ、いつものように煙草も忘れないで。

妹 心得ていますわ。いったいあんなに煙草を吸って、あの声が出せるなんて、本当に不思議。

姉 それが、あの方が天にも昇る声で歌える秘訣よ。

☆「二人のマダム・ジリー」は、映画とガストン・ルルーの原作、スーザン・ケイの「ファントム」及び、ジェラルド・ファントムとマダム・ジリーにヒントを得て書きついでおります。
「ファントム」をお読みいただくと、年代にそって登場人物が語る形式で、原作に散りばめられたモチーフを拾い集め、ファントムの生い立ちから細かく描かれています。
オークションシーンでの年齢にしては(多分80歳位)あまりに若い様子に、マダム・ジリーの秘密にアプローチしてみたいと思っておりました。
スーザン・ケイが描いていない年代や部分、また原作ではボックス案内人となっていたマダム・ジリーが映画ではバレエ教師になっていた矛盾を埋めてみたい、そしてできれば、おそらくクリスティーヌよりは共感・同化しやすいマダム・ジリーというキャラクターに、読んで下さる方がご自分を重ね合わせていただければと。
よろしかったら、どうぞご贔屓に。


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