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「オペラ座の怪人」に惑う・『~恋に落ちる瞬間~閑話休題その3』

非常事態に恋に落ち易いのは心理学でもいわれること。

クリスティーヌは二回までもファントムの仮面を引き剥がしています。
ファントムはプリマ・デビューを成功させた教え子に
自ら隠れ家たる地下の芸術の殿堂を余すところなくみせ、
共に至高の音楽の道を歩もうと誘う。
そのラストに、自分を模した花嫁人形を見てクリスティーヌは気を失い、
ファントムの腕で眠りにつく。

芸術の神の花嫁、神に全てを捧げる修道女、
Angel of musicの象徴的な姿を見せたのは
芸術(=神=ファントム)への献身の決心を促すため。
そしてクリスティーヌというエンジェルの翼を得てのみ、
魂が飛び立てるという、ファントム自身の決意表明でもあるのでしょう。

「お前はもうおれの手をとった。同時にふたりの男の手はとるな。
両方からひきよせられてひきさかれる。おれははなさない。」
(『エースをねらえ!』 山本鈴美香 1973-)

真の師弟は互いに身を捧げあうもの。

先に身を投げたファントムは、クリスティーヌにされるがまま。
眠りから醒めた彼女に身をゆだね顔を撫ぜさせるのも、
完全に無防備になっている証し。

それが一転、仮面を引き剥がされることで豹変し、デリラとまで罵る。
髪を切られることで瞬時に力を失ったサムソンのごとく、仮面は
神から与えられたに等しい美のパワーを守る砦。

隠れ家には大鏡がいくつも並べてありましたね。
ファントムはナルシストの常として鏡を見るのが好きだったのでしょう。
マントを翻す仕草、一番美しく見える角度、
仮面の奥から見切る視線の研究にも、余念がなかったはず。
その効果は、いまだ足繁く通う方がいらっしゃるのをみても一目瞭然。

自らの美しさを確認するのが好きなのは、
源氏物語のドン・ファン光源氏も同じ。
鏡を覗いて、女性の羨望の眼差しを得て悦に入るナルシスト。
源氏の場合は素顔の自分の美しさが認められないことに、
かえって心そそられていますけれど。 【夕顔より】 

仮面を憎みつつも身を添わせねばならないファントムは
素顔をクリスティーヌにさらしたことに動揺し、
「Fear can turn to love (恐れが愛にも)」という言葉を口にする。

師としての思いが、恋に変わった瞬間。
ファントムの思いに戸惑い続けたクリスティーヌは、
自らそのきっかけを作ったとも。

恋をしてからのファントムは、尊大さに隠された脆さ、
不器用さがどんどん露呈してゆきます。
目の前で交されるラウルとクリスティーヌの愛の言葉に嗚咽し、
二人を呪うことを誓うも
仮面舞踏会で衆目に姿をさらして自分の存在をアピールし、
師のもとに戻れと言い放つ姿は懇願にも見える。
あの水際立った赤のスタイルでなければ、道化にさえなるでしょう。

さらに恋する相手と言い交わしたいセリフを散りばめたオペラを作り、
自ら演じる捨身の行動。
官能的な歌で完全にクリスティーヌを恍惚とさせたと見えるも、
ラウルとほどんと同じ愛のセリフを発して現実に引き戻してしまう。

...
Say you want(need) me
With you here
Beside you
Anywhere you go
Let me go too
Christine that’s all I ask of (you)…   

"Past The Point Of No Return" Andrew Lloyd Webber 1986 

( )は"All I Ask Of You"のラウル

「一緒に そばにいて欲しいと 言っておくれ 
 どこへゆこうと ついてゆくよ
 クリスティーヌ 求めているのは ただそれだけ」

美しく韻を踏んだバラード。
幸せな恋人同士の、甘い言葉を口にしてみたかったのでしょうね。

そのあげく、二度目の仮面引き剥がしにあい、
素顔を大勢の観客に見られることになるとは。
まこと、恋は盲目。

皆さまも、非常事態にはどうぞお気をつけ下さいませ。
願わくば、ジェラルド・ファントムのごとく、
落ちて悔いなき相手でありますよう。

☆仮面舞踏会でフェルゼンがアントワネットの仮面を取った時に、
やはり二人は恋に落ちていますね。☆


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