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「オペラ座の怪人」に惑う『~美と愛と哀~閑話休題 その1』

恋する方々の魂は、本当にハート型なのだときいたことがあります。
円熟した満たされた魂が球体だとしたら、
想像力と感情が肥大し、周囲が見えなくなり、
どこかあやういバランスをなんとか保っているのが恋する魂。

この半年、ずっと聴きこんでいるのが「オペラ座の怪人」のサウンドトラック。
86年にロンドンでスタートしたアンドリュー・ロイド・ウェバーのミュージカルは、
ゴシックホラーの原作に貫かれた、愛の要素を前面に押し出した作品。
ブロードウェイでも上演され続けていて、8000万人が観劇。
キャッツの記録を塗り替えそうだとか。

(原作者ガストン・ルルーは「黄色い部屋の秘密」という密室作品も)

日本でも88年に劇団四季が初上演。
そのときのチケットを友人に取ってもらったのですが、
アメリカに行くことになり、キャンセル。
その無粋な振る舞いがファントムの逆鱗に触れたのか、
17年の時を経て、ようやく映画にてファントムにお目通りがかない、
案の定、すっかり魅せられている次第。

華やかな舞台、そのバックステージ、シャンデリア、オルゴール、美しい衣装、
地下運河、ゴンドラ、仮面舞踏会、指輪、花嫁の人形、赤い薔薇。
孤独で支配的な異形の男性が、
美しい孤児の歌の才能を育てスターにした途端、
白馬に乗った青年貴族たるライバルが現われての三角関係。

舞台には魔物が棲むといいますが、それを顕現した映画。
上映されて半年以上たち、DVDも発売されている作品が
いまだに各地の映画館で上映されているのも、
さもありなんですね。

ミュージカル作品の映画化の成功としては「シカゴ」も記憶に新しいところ。
こちらも好きで三回、映画館に足を運び、DVDも購入。

もともとミュージカルにも出演していたというアカデミー賞受賞の
キャサリン・ゼタ・ジョーンズの歌とダンスの上手さは納得の一方、
一番好きなのは、ミュージカル初挑戦のレニー・ゼルヴィガーの「Nowadays」。
レコーディングでスタッフが泣いたというのがわかる切々とした歌いぶりです。

「映画・オペラ座の怪人」は主役が三人。
歌姫クリスティーヌ役のエミー・ロッサムも
その恋人ラウル役のパトリック・ウィルソンも
オペラやミュージカルの舞台に立っていて、歌唱力は抜群。

そしてファントム役のジェラルド・バトラー。
歌はミュージカル初挑戦と思えないほど。
非常に官能的な声がイマジネーションに富んだ演技と相まって
危険なほどの魅力。
レニー・ゼルヴィガー同様、新機用で大成功した例になりました。

特に劇中劇・「勝利のドン・ファン」で
真っ赤に染まる橋の上でクリスティーヌに迫る歌
「Past The Point Of No Return(もうひき返せない)」は、心奪われます。
このシーンは一番最初に撮られたそうで、あまりのセクシーさに
女性スタッフ全員がため息をついたとか。
「どうしよう。クリスティーヌは本当にファントムに惹かれているんだね。」
ライバル役のウィルソンも演技を超えて泣いたそう。

支配的で奪うことしか知らない怪人の、
愛を求める魂はずっとハートシェイプなまま。
劇中劇が「ドン・ファン」をモチーフにしているのも興味深いところ。

芸術と愛に身を捧げ、共に黒い闇に堕ちる選択はいかがでしょう。
ハート型の魂のいびつさをだんだんに球体にしてゆく醍醐味もありそう。

陽のあたる場所で、生涯胸にたたんだ思いを抱えてゆく選択も。
これもあなたに謎めいた魅力を与えるでしょう。
多くの方がこちらを選択するゆえに、ステディなパートナーとの関係への
スパイスになっている可能性も。

ファントムの才能と危うさに惹かれつつ
まっとうな青年ラウルを選んだクリスティーヌ。
あなたが彼女ならどちらを選ばれるでしょうか。

美と愛と哀を味わいに、よき作品をぜひ。


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SomethingPrecious

ファントムは、もう10年くらい前になりますが、ヨーロッパ旅行中にロンドンで。知識も無くオペラハウスも演者も名前は忘れましたが、2階席の真正面で本当に最高でした。
その後、物語にも色々なバージョンがあることがわかったような次第です。
このシリーズ、とても楽しみに拝見させていただいております。
by SomethingPrecious (2005-10-01 21:42) 

ayakawa

きまぐれな人魚さま
ロンドンでのファントム鑑賞、素晴らしかったでしょうね。私はもっと前になりますが同じロンドンでレ・ミゼラブルを天井桟敷のような舞台を真上から見下ろす席にて。近くでファントムとも逢えたかと思うと感慨深く。
いつも読んでいただいて、本当にありがとうございます。
by ayakawa (2005-10-02 00:14) 

euridice

オペラ座の怪人は、原作もミュージカルも、なんとなく知ってました。「黄色い部屋の秘密」は子ども時代、文学全集に入っていて、夢中になった推理小説かもしれません。作者名に確信がありません・・
ミュージカルを意識的に聞いたのは、好きなオペラ歌手のペーター・ホフマンが歌ったというのを知ってからです。初めに聞いたのは、ほんとに短い音声ファイルでしたが、それだけで聞き惚れてしまいました。(よろしければ、どうぞ・・)

http://www.geocities.jp/euridiceneedsahero/memo22.html

>ジェラルド・バトラー
>非常に官能的な声がイマジネーションに富んだ演技と相まって
危険なほどの魅力。

同感です。とても魅力的な声だし、歌い方も、表現力抜群で、惹き付けられます。
by euridice (2005-10-02 14:59) 

ayakawa

euridiceさま
ペーター・ホフマン氏のファイルのご紹介、ありがとうございます。
ファントムの関わる歌そのものの魅力、色気やワイルドさなども存分に引き出していらっしゃると思います。

ご紹介いただいたページの「俳優もまた、残念なことに、演劇でもこういう固定的区分をする、そして オペラ感覚なんて言うのだが、・・・」云々のあたり興味深く拝見しました。
先日、アメリカン・ジャズの講座のお手伝いをしたのですが、そのときのお話でアメリカにオペラがないことを残念に思ったジョージ・ガーシュウィンがジャズを取り入れたナンバーを作ったと。ヨーロッパでは最初オペラとは認められなかったそうです。いまでは『ポーギーとベス』(Porgy and Bess )はオペラと認識されるようになったとか。

ウェバーが「オペラ座の怪人」を作ったとき「彼はミュージカルではなく、本当はオペラを作りたかったのだ。」と揶揄されたという話、またフランスでは今回の映画はあまり評価されなかったということ、日本においても舞台から入った方々の間では賛否が分かれていることなどと思い合わせ、このようにして芸術は発展していくのだとこの渦中に身をおく楽しさを感じております。
by ayakawa (2005-10-02 16:41) 

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