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「オペラ座の怪人」に惑う・『非日常と孤独~閑話休題その6』

オペラ座の仮面舞踏会は、クラブ、ティスコティックといったおもむきだったよう。
マリー・アントワネットが堅苦しいベルサイユ宮殿から逃れるため出かけた、
はじめは貴族やお金持ちたちの、のちはかなり一般的な遊びの場。
お見合いの場としても重宝したとかで、クリスティーヌがラウルと再会するのに
やはりふさわしいところ。

ラウルを含めた通常の人たちにとっては、
陽のあたる日常から非日常の世界へ。
寄宿生・クリスティーヌにとっては、昼も夜も朝も、オペラ座そのものが日常。
そしてファントムには、地下の闇の日常から、仮面や衣装や濃い化粧をした、
自分と似た姿の人々とつかの間すれ違える、遊びの場。
三者の接点となるオペラ座。

ラウルは物理的に日常と非日常を自由に行き来できる。
クリスティーヌは劇場の住人として、ファントムの教え子として、
オペラ座以外の世界があることを、ラウルの出現で思い出す。
Light of day、陽の光を運んできたのがホワイトナイト・ラウル。

ファントムにとって陽の光は仮面と同じく無情、unfeelingなもの。
クリスティーヌにも陽の光に背を向け、夜の闇に感覚を向けるように歌う。
地下と劇場以外の世界を選択できない故に、常に闇の中で
想像力で創造力を培い魂を飛翔する術を学んだファントム。
闇の中にいてこそ、ファントムは光を放つ。

昼も朝も夜もあってこその人生と、
ラウルは明るい日常、生活、夏の日の思い出を語る。
一方、ファントムは暗い過去を背負った調べを歌う。
私の夜。ファントムにとっては夜が昼、昼が夜。

見えないものをつかみ、聞き取り、感じとるのは闇の中だからこそ。
ファントムの仮面となって皆に声を聞かせる翼がクリスティーヌ。

明るい陽の光のもとで、目に見えるものを表現するのはたやすい。
見えない世界にこそ、真のパワーがあると語るファントム。
闇の中にある果て無き天上の音楽。
その仲間に永遠にクリスティーヌを加えたい。

5年間、劇団四季でファントムをしている方の興味深い発言。
「僕はクリスティーヌという女性がどうしてもわからない。
19世紀の女性だからああいう選択をしたんでしょうか?
ファントムと一緒にいけばいいのに。誰だってそう思うでしょう?」
(「オペラ座の怪人・パーフェクトガイド」より)
彼はラウルとクリスティーヌをしている方の師・先輩でもある著名なテノール。
これぞ芸術に生きる方の視点。
ファントムが執拗に疑いなくクリスティーヌに迫るのはまさにこの発想から。

ブーケ事件以後、仮面舞踏会で再びファントムに会うまでの三ヶ月の間、
ラウルと存分に過ごし、陽の光にあたる日常を、クリスティーヌは知ったはず。
その間、ファントムは闇の日常に篭り続けた。
受難劇を生き、ともに十字架を背負うことをうながす作品のために。
さながら陽の光を恐れるドラキュリア。
そのくせラウルの指輪を捨てないのは、やはり陽の光に憧れるゆえ。

Share each day with me, each night, each morning.
オペラ座に留まっていたクリスティーヌにとって、日常を共にするのは
かつては夢にまで出演するファントムの役目。
ラウルにその座を明け渡したファントムは再び、
孤独を学ばなくてはならなくなる。

もとより孤独に耐えるのはお手のもの。失うことにも慣れている。
0から芸術の殿堂を作り上げたときのように、
太陽のように孤高に生きることができるファントム。
芸術家の孤独の影に惹かれ溺れる者たちも、また現われたはず。

一方ラウルは一人残されたとき、ただ力なく絢爛たる過去を振り返り、
失ったものを嘆き、これから続く孤独な日常を思い、おののく。
神と共にあれば、一人でないと知ってはいても。

芸術家は常に己の孤独を凝視する。
数十年の時を経て、ようやく成ったドン・ファンの勝利。
オペラ座のプリマの栄光のように、あまりにも得がたく儚きtriumph。


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Cecilia

いつも興味深く拝見させていただいています。
私はファントムが好きで、ジェラルド・バトラーのファンになりつつあります。
性格にはジェラルド・ファントムのファンかな!?
今度劇団四季の舞台を初めて観に行きます。
とっても楽しみです。
by Cecilia (2005-10-17 09:59) 

euridice

Cecilia さん
しばらくです。こちら、私も楽しみに読んでます。

>劇団四季の舞台
私も十年ぐらい前に一度見ました。
この間、息子夫婦がロンドンで観たとか、感激してました。
うらやましい・・^^;
by euridice (2005-10-17 10:47) 

ayakawa

Cecilia さま
コメントありがとうございます。
ジェラルド・バトラー氏の他の作品も辿ってゆくと、
ファントムになるべくしてなった方だなと。
機会がありましたら「ドラキュリア」、「Dear フランキー」なども、ぜひ。

四季の舞台、愉しんでいらしてくださいね。
by ayakawa (2005-10-17 17:11) 

ayakawa

euridiceさま
ロンドンでのオペラ座の怪人、趣があったことでしょうね。
映画でメグ・ジリーをしていたジェニファー・エリソンは
「シカゴ」のロキシー・ハート役で9月からロンドンで
舞台に立つとのことでしたが、どちらの劇場でしょうね。
by ayakawa (2005-10-17 17:15) 

euridice

>ジェラルド・バトラー氏の他の作品
私も機会があったらぜひみたいです。

ひとつだけ後で知ったのですが、テレビ映画らしいんですけど、
「アッティラ」というのを見ました。とっても魅力的でした。

>ジェニファー・エリソン
とっても可愛い人ですね。
by euridice (2005-10-17 18:35) 

ayakawa

euridiceさま
「アッティラ」をご覧になったとのこと、海外DVDでしょうか、私も拝見しました。
一度日本でも放映されたことがあるそうですね。
「ベーオウルフ」の撮影が終了、ちょうど本日より「300」という映画のクランク・イン、
スパルタ王・レオニダスを演じられるそうです。

映画・「シカゴ」のレニー・ゼルヴィガーのロキシー・ハートも好きでしたので
舞台でも観てみたいです。
by ayakawa (2005-10-17 22:26) 

みど

はじめまして。
興味深く読ませていただきました。
私は映画版をさいきん観たのですが、やはり、クリスティーヌはなぜ、ファントムについていかなかったのか。私ならついていくのに。

映画のアッティラって、オペラのアッティラと一緒なんですかね?
by みど (2005-10-18 03:14) 

ayakawa

みどさま、はじめまして。

「クリスティーヌはなぜ、ファントムについていかなかったのか。私ならついていくのに。」
はい、映画館で観たときも、私もまったく同じことを思い、同じ館内で観ていらした方々も口々にそう言っていらっしゃいました☆

オペラのアッティラ、拝見していないのですが、フン族の王・アッティラの西方への遠征の物語でほぼ同じかと。
両方ご覧になった方、よろしかったらお教えくださいませ。

ちょうど撮影に入られた「300」は東方からの遠征を阻止するスパルタ王の役ですので、ちょうどまったく反対の役柄をされるというところ、興味深いと思います。
by ayakawa (2005-10-18 08:32) 

euridice

>両方ご覧になった方
一応両方見ているのですが、細かいことは覚えていません。

テレビ映画のほうは長編で、アッティラの子ども時代から描かれています。(子役もよかったです)愛した女に殺されるという大筋は同じだと思います。

オペラのほうは、人物像が深く描かれているとは言えないように思います。(まあ、映画もそれほど緻密とは言えないかも・・)

オペラ映像は二つ、スカラ座のとヴェローナのものを見ました。そりゃもう迫力と主人公のかっこよさは比較対照外というところでしょうか。

映画、外国版のDVDしかないのが残念ですね(英語なので字幕がない・・・それにリージョン1、偶然wowowの録画を見せてもらいました、もう一度見たくなったので、中古DVD買っちゃった^^; この主演俳優さんがオペラ座の怪人をすることになるとは!!)

ついでに。アッティラと言えば、ドイツの無声映画、フリッツ・ラング監督、「ニーベルンゲン」の後編、「クリームヒルトの復讐」に登場します。容貌魁偉、一瞬人間に見えませんが、高潔な人格者に描かれています。

これも以前はビデオとLDがあったのですが、DVD化されないみたいです。外国版DVD(リージョン0)は出てますが。。

http://www.geocities.jp/euridiceneedsahero/langmovie02.html
by euridice (2005-10-18 09:54) 

ayakawa

euridiceさま
詳しくお教えいただき、ありがとうございました。
まあ、WOWWOW放送のアッティラをご覧になられたとは。
私はUK版のものを。リージョン2のためパソコンで観ることができました。
バトラー氏は他に「タイムライン」、「トゥームレイダー2」にも出演されていますが
お顔が毎回違うような印象です。「ワンモアキス」というオペラが好きな
フランス料理店の店長さん役のDVDも日本語版ででました。

ニーベルンゲンのご紹介もありがとうございます。
西方世界に潜む東方への印象、こういった作品にも様ざまにあらわれているのですね。
by ayakawa (2005-10-18 14:54) 

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